中東真紀「多職種連携は患者CAREをCUREにする」


 慢性疼痛チームのワークショップでは、ひとつの症例を多職種で取り組み支援策を提案します。医師、看護師、薬剤師、理学療法士、鍼灸師、管理栄養士、臨床検査技師、診療放射線技士、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど職種の違うプロ集団です。「この疾患は、私の職種では関われない」ではなく、あなたの持っている情報や専門知識、提案が、このプロ集団の中で新しいケア(CARE)を生みだすことに繋がります。勇気を持って、どんどん発言して欲しいです。あなたの提案はとても貴重なのです。次の症例では、どんなケアが必要なのか考えて見ましょう。


症例:Mさん、女性、頚椎症のエピソード

 11年ほど前に頚椎症と診断された。右肩から親指まで継続した痛みが走り、右腕はとてもだるい。痛みに耐えながら熟睡できない日々を送っていた。5番と6番の頚椎がずれているらしく、主治医からは「この痛みは治らないよ。手術も覚悟しておいてください。」と言われた。この痛みと一生付き合っていくのかと思うと憂鬱な気持ちになるが、仕事中は痛みが和らぐこともあった。頚椎症が発症して2年後に、転職をして仕事内容が大きく変わった。仕事中の平均歩数は約3倍に増え、自動車での通勤距離は往復250kmから140kmと約半分に減った。2~3ヶ月後には痛みはすっかり消えていた。痛みが消えてから7年後のある日、追突事故で頭を強打して整形外科と脳外科を受診する。担当医師がMRI画像を見ながら「5番と6番がひどい。両腕にしびれがあるでしょう?今度、転んだら首から下が動かなくなるよ」と宣告した。痛みはないが、追突されてから首の後ろがどんより重く、右手親指がしびれている。医師に予防策を聞いたところ「うつむいた姿勢で仕事をしないこと。転ばないこと。」であった。Mさんは、この先どのように生活すれば良いのか、とても不安を感じている。


 この症例は、生化学データや身体計測値、生活環境などの情報が足りません。また、管理栄養士と臨床検査技師は関わりが難しいと感じたかもしれません。腰椎椎間板ヘルニアや変形性膝関節症などは、運動不足や肥満が原因で発症したり、体重増加で症状が悪化したりします。痛くて運動ができない場合には、適正体重にするための食事療法が役に立ちます。栄養療法で筋肉をつけることもできます。この症例ではどうでしょう。食事内容などの足りない情報を調査することで、問題点が見つかることもあります。栄養状態や炎症反応を評価できる検査値も必要になります。「患者さんをよく観察して、問題点を見つける」ことから患者ケアは始まります。私たち医療人は患者さんから多くの情報を得て、多くのことを学びます。多職種連携での患者ケア(CARE)は、治療(CURE)にも繋がる大きな力になると信じています。

なかひがし まき


製薬会社で生化学研究室研究員として勤務後、医療法人同心会遠山病院栄養科主任、名古屋経済大学准教授、

四日市羽津医療センター栄養課課長、鈴鹿医療科学大学准教授(現在)に至る。社会活動は、三重クローン病研究会世話人、みえIBD(クローン病、潰瘍性大腸炎)患者会事務局、三重県難病相談支援センター難病相談員、東海嚥下食研究会顧問、ロコモティブ症候群・メタボリック症候群研究会(ロコメタ研究会)世話人ほか